【2026年9月更新】起業後の生命保険|会社員との差を埋める3基準
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執筆者山中 忠 (FP1級・証券外務員一種保持)

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起業すると、生命保険の前提が変わります
会社員から個人事業主、フリーランス、ひとり社長になると、収入の入り方だけでなく、病気・死亡・老後に備える仕組みも変わります。この記事では、 起業後の生命保険 を見直すときに、会社員時代との差をどう埋めるかを3つの基準で整理します。
大切なのは、保険をむやみに増やすことではありません。公的保障、事業資金、家族の生活費、教育費、老後資金を並べて、足りない部分だけを民間保険で補うことです。起業直後は売上が読みにくいため、保障を厚くしすぎると固定費が重くなります。一方で、保障を削りすぎると、万一のときに家族と事業の両方が止まるリスクがあります。
2026年9月時点では、iDeCoの拠出限度額引き上げや、子育て世帯向けの生命保険料控除の特例など、起業後の家計設計に関わる制度変更もあります。まずは「会社員時代に会社や制度が支えてくれていた部分」を見える化するところから始めましょう。
起業後にまず確認したい変化
- 1会社員時代の健康保険から国民健康保険などに変わると、病気で働けない期間の収入補填を自分で準備する必要が高まります。
- 2厚生年金から国民年金中心になると、将来の老後資金や遺族年金の見込みが変わります。
- 3勤務先の退職金制度がなくなるため、iDeCoや小規模企業共済などで自分の退職金を作る視点が必要です。
- 4売上の波が大きくなるため、毎月の保険料は事業の固定費として無理なく続けられる金額に抑えることが大切です。
- 5住宅ローンや教育費がある家庭では、死亡保障だけでなく就業不能時の生活費もセットで考える必要があります。
会社員との差は「公的保障・収入安定・退職金」の3つ
起業後の保障見直しで最初に見るべきなのは、会社員時代との差です。会社員は健康保険、厚生年金、勤務先の福利厚生、退職金制度などに守られていることがあります。起業すると、その一部を自分で設計する必要が出てきます。
とくに影響が大きいのは、病気やケガで働けなくなったときの収入減です。会社員の健康保険では、一定条件を満たすと傷病手当金を受け取れる場合があります。一方、自営業者が加入する国民健康保険では、会社員の傷病手当金と同じ前提では考えにくいため、死亡保障だけでなく 就業不能リスク への備えを検討する意味が大きくなります。
また、2024年11月からは、企業等から業務委託を受けるフリーランスが業種・職種を問わず労災保険に特別加入できるようになりました。仕事中や通勤中のケガ・病気・死亡への備えとして、対象者は(令和6年11月1日から「フリーランス」が労災保険の「特別加入」の対象となりました)も確認しておくと安心です。民間保険だけでなく、公的制度や準公的制度を先に押さえることが、保険料を増やしすぎないコツです。
会社員時代の生命保険をそのまま続けても大丈夫?
起業前に入った生命保険があります。保険料も高くないので、そのままでいいでしょうか?
そのまま続けられる契約もありますが、会社員時代の前提で設計されている可能性があります。まずは死亡保障額、保険期間、働けない期間の保障、保険料の固定費負担を確認しましょう。
基準1:死亡保障は「遺族年金との差額」で見る
起業後の死亡保障は、家族に残したい金額から公的保障と貯蓄を差し引いて考えます。会社員時代は厚生年金に加入していた期間があるため遺族厚生年金が見込める場合がありますが、起業後に国民年金中心になると、将来分の上乗せは薄くなります。
2026年4月分からの遺族基礎年金は、子のある配偶者が受け取る場合、昭和31年4月2日以後生まれの人で年額847,300円に子の加算額が上乗せされます。子の加算額は1人目・2人目が各243,800円、3人目以降が各81,300円です。詳しい受給要件や金額は(遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額))で確認できます。
会社員期間がある人は、遺族厚生年金も確認しましょう。遺族厚生年金は原則として、亡くなった人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3が目安です。対象者や受給期間は家族構成で変わるため、(遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額))と、ねんきん定期便をあわせて見ておきましょう。
起業後は気持ちが前向きな時期ほど、将来の売上を高く見積もりがちです。生命保険は事業計画ではなく、今の家族が暮らすために必要な金額から落ち着いて逆算しましょう。
不足額の計算は、家族費用と事業整理費を分ける
死亡保障を考えるときは、「家族に必要なお金」と「事業を畳む、または引き継ぐためのお金」を分けると整理しやすくなります。
たとえば、配偶者と子どもがいる家庭なら、生活費、教育費、住宅費、葬儀費用を見積もります。そこから預貯金、NISAなどの換金可能な資産、遺族年金、団信で消える住宅ローン分を引きます。残った不足額が、民間の死亡保険で検討する目安です。
事業側では、未払いの外注費、借入返済、リース契約、店舗や事務所の原状回復費、顧客対応に必要な費用などがないかを確認します。ひとりで仕事をしている人ほど、万一のときに家族が事業の契約内容を把握できないことがあります。保険金額だけでなく、契約一覧や連絡先を残しておくことも、家族を守る実務です。
基準2:働けない期間は「生活費と事業固定費」を分ける
起業後の生命保険で見落としやすいのが、働けない期間の収入減です。死亡時は死亡保険金で一度に備えられますが、病気やケガで半年、1年と働けない場合は、生活費と事業の固定費が同時に出ていきます。
まず生活費は、家賃・住宅ローン、食費、教育費、通信費、保険料、税金や社会保険料の支払いを月額で把握します。次に事業固定費として、事務所家賃、クラウドツール、外注費、リース料、借入返済、広告費などを分けます。生活費は家族のための保障、事業固定費は事業継続資金として考えると、保険で備える部分と現預金で持つ部分を分けやすくなります。
目安としては、生活費と事業固定費を分けたうえで、まず現預金で数か月分を確保し、それでも不足する長期療養リスクを就業不能保険や所得補償保険で補う順番が現実的です。保険会社によって「働けない状態」の定義、免責期間、精神疾患の扱い、在宅療養の扱いが異なるため、保険料だけで比較しないようにしましょう。
起業後の保障見直し3基準
- 1死亡保障は、遺族年金・預貯金・団信・教育資金を差し引いた不足額だけを保険で補います。
- 2就業不能への備えは、生活費と事業固定費を分け、現預金で何か月耐えられるかを確認します。
- 3老後資金は、生命保険だけでなくiDeCo・小規模企業共済・NISAとの役割分担で考えます。
- 4保険料は、売上が低い月でも払い続けられる水準にし、起業初期の固定費を増やしすぎないようにします。
- 5子育て世帯は、教育費と生命保険料控除の影響も含めて、年末調整ではなく確定申告ベースで確認します。
基準3:老後資金はiDeCo・小規模企業共済と分ける
自営業者や個人事業主は、老後資金の設計も会社員時代と変わります。2026年9月時点では、自営業者など国民年金第1号被保険者のiDeCo掛金上限は月6.8万円です。さらに制度改正により、2026年12月分から第1号被保険者の上限が月7.5万円へ引き上げられる予定です。厚生労働省の( iDeCoの概要)では、現行の拠出限度額や税制上の扱いを確認できます。
国民年金基金連合会の(手続関連)では、2026年12月分、2027年1月引落分からの拠出限度額引き上げに伴う掛金変更手続きについて案内されています。上限が広がるのは良いニュースですが、起業直後に満額拠出を急ぐ必要はありません。iDeCoは原則60歳まで引き出せないため、納税資金や運転資金まで入れてしまうと、事業の資金繰りを圧迫します。
一方、個人事業主や小規模企業の経営者には小規模企業共済という選択肢もあります。掛金は月1,000円から7万円まで500円単位で設定でき、掛金全額が所得控除の対象です。制度の内容は(制度の概要)で確認できます。生命保険は保障、iDeCoや小規模企業共済は老後・退職金づくり、NISAは流動性のある資産形成と分けて考えると、無理な保険加入を避けやすくなります。
貯蓄型の生命保険で老後資金も作るべき?
起業したので、保障と老後資金をまとめて貯蓄型の生命保険にしたほうが安心ですか?
一体型はわかりやすい反面、途中解約時の元本割れや保険料負担に注意が必要です。保障は掛け捨て、老後資金はiDeCoや小規模企業共済、NISAなどと比較して決めるのがおすすめです。
NISAは老後資金だけでなく、事業の予備資金との距離感も大切
NISAは運用益が非課税になる制度で、2024年からはつみたて投資枠と成長投資枠を併用できる仕組みになっています。制度の基本は金融庁の( NISA特設ウェブサイト)で確認できます。
ただし、起業後のNISA活用では「長期運用に回してよいお金」と「近いうちに使うかもしれないお金」を分けることが重要です。税金の納付、社会保険料、売上入金の遅れ、設備更新、広告費など、事業では急な支払いが起こります。生活防衛資金や納税資金まで投資に回すと、相場下落時に不利なタイミングで売却せざるを得ないことがあります。
老後資金を作る順番は、まず現預金で家計と事業の最低限の安全資金を置き、次にiDeCoや小規模企業共済の所得控除を検討し、余裕資金でNISAを使う流れが無理の少ない考え方です。生命保険の貯蓄機能だけで老後資金を作ろうとすると、保障と運用の目的が混ざり、見直しにくくなる場合があります。
生命保険料控除は使えるが、節税だけで選ばない
起業後は会社員の年末調整ではなく、確定申告で生命保険料控除を申告する人が多くなります。2026年分の所得税では、23歳未満の扶養親族がいる場合、新制度の一般生命保険料控除の適用限度額が最大6万円に拡充される扱いが設けられています。財務省の(令和7年度税制改正の大綱(1/9))では、令和8年分における新生命保険料の控除計算や、3区分合計の適用限度額12万円は据え置きであることが示されています。
生命保険料控除の基本的な計算方法や確定申告時の添付書類は、国税庁の(No.1140 生命保険料控除)で確認できます。
ただし、控除があるから保険料を増やす、という順番は危険です。控除で戻る税金より、毎月の保険料負担のほうが大きいからです。節税効果はあくまで副次的なメリットとして、必要保障額とキャッシュフローを優先しましょう。
起業後の家計では、税金を減らすことよりも、売上が落ちた月にも家族と事業を守れる現金を残すことが大切です。保険はその現金戦略の一部として考えましょう。
法人化した社長も、まずは個人の保障を確認する
法人化すると、役員報酬、社会保険、退職金規程、法人契約の保険など、検討項目が増えます。ただし、この記事で扱うのは個人の生命保険です。法人保険は節税や事業保障の文脈で別途検討すべきもので、個人の死亡保障や家族の生活費とは目的が異なります。
ひとり社長の場合でも、まずは家族が困らない死亡保障、病気で働けないときの生活費、役員報酬が止まった場合の備えを確認しましょう。そのうえで、法人の内部留保や借入、役員退職金、事業承継といったテーマが出てきたら、税理士やFPと連携して法人契約を検討する流れが自然です。
法人契約の保険を検討する場合も、「会社の借入や運転資金を守る保障」と「家族の生活を守る保障」を混ぜないことが大切です。保険料を法人で払えるかどうかだけで判断すると、個人側の保障不足に気づきにくくなります。
相談前に用意すると見直しが早い資料
起業後の生命保険見直しは、保険証券だけを見ても正解が出にくいテーマです。事業と家計が近いからこそ、売上、生活費、納税、社会保険、教育費、住宅ローンを一緒に見る必要があります。
相談前には、保険証券、ねんきん定期便、直近の確定申告書、毎月の生活費、事業固定費、住宅ローン残高、教育費の予定を用意しておくとスムーズです。法人化している人は、役員報酬額、会社の借入残高、固定費、退職金規程の有無も確認しておきましょう。
完璧な家計簿でなくても構いません。まずは月にいくら出ていくか、何か月分の生活防衛資金があるか、働けなくなったらどの支払いが止まらないかを見える化することが第一歩です。
まとめ:重要ポイント
- 1起業後は、公的保障・収入安定・退職金制度の前提が会社員時代と変わります。
- 2死亡保障は、2026年の遺族年金額、預貯金、団信、教育費、事業整理費を差し引いた不足額で考えます。
- 3働けない期間への備えは、生活費と事業固定費を分け、現預金と就業不能保険で役割分担します。
- 4老後資金は、生命保険だけでなくiDeCo・小規模企業共済・NISAの流動性や税制を比べて決めます。
- 5生命保険料控除や節税効果は大切ですが、保険料を払い続けられる家計設計を優先します。
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